厨房スタッフも魚沼産? 地元素材を知る地元出身の料理人たちが作る料理に変身
ふるさとのように迎えてくれる宿。地場産の素材をいかすため調味料も無添加に変更
「もともとは湯沢町と同じ昭和30年に生まれた木造3階建ての宿だったんです」という松泉閣花月。その後、平成元年に鉄筋の建物になり大型バスや宴会などの需要も多かったのですが、2007年、リニューアルをして家族連れ向けに特化した宿として生まれ変わりました。
キャッチコピーにもなっている「なつかしき心のふるさと」をコンセプトに、お客様のふるさとになるようにと、もてなしにも心を配っています。
「あえて、お出迎えの挨拶も、“お帰りなさいませ”にしているんです」と若女将の富井智子さん。お客様にくつろいでもらえるようにと、接客もあまり堅苦しくならないよう「ホテルというよりは、なんとなく民宿っぽい感じにしています」。
おかげで女将に会いに来る方など常連が多く、中には3世代にわたっての常連さんもいるとか。
「米寿のお祝いができるお宿になりたいなと思っていたんです」との言葉どおり、関東圏から泊まりがけで米寿のお祝いに来たり、その先の卒寿(90歳)、白寿(99歳)のお祝いに来る宿泊客までいるのだとか。現在、それらの方のために、白いちゃんちゃんこや、ピンクのちゃんちゃんこを用意しているのだとか。
世代をこえて親しまれている宿の魅力は、そのあたたかなもてなしと居心地の良さに加えて、料理も大きな要素。
現在の調理長は地元出身の宮澤敏郎さん。10年ほど前から花月の厨房で働いているそうですが、調理長になったのは2年前。
「それからは、社長の意向もあってほとんど地元の食材を使うようにしてきました」。
リニューアル前は三分の二ほどの席数になったとはいえ、まだまだ多い時では100人ほどの料理を作るので、一気に変えていけたわけではないものの、徐々に地元産の割合を増やしてきたのだとか。
写真は、若女将のお姉さんが作っているという、季節の使用食材の地図。わかりやすく親しみがもてると大好評ですが、ここに描かれているように、現在は冬の野菜が少ない季節を除いて、大部分の素材が新潟県産です。
また、加工品や半製品はいっさい使わず、ドレッシングや陶板焼きのタレなども厨房で手作り。漬物なども近所の方が作ったものを使っています。
さらに、2年ほど前から、だしや調味料などもすべて無添加のものへの切り替えを進めてきました。
調理長の宮澤さんは言います。
「それまでは醤油とか味噌とかもまったく意識はしていなかったですね。でも、無添加のものをいろいろと試したり、業者に余計なものが入っていないものをと指定して納品してもらったりして、変えていきました。一番びっくりしたのが味醂ですね。本物を使うと、こんなに味が変わるとは思わなかった」
実は、調理長だけではなく、厨房のスタッフはほとんどが地元出身の方。地元の素材や調理法には詳しい人ばかりです。さらに、若い女性や洋食出身の料理人もいます。
「自分が一人で考えるだけではなく、みんなで考えながらやってるんですよ。良いものがあれば「これやってみな」って作ってもらっています。そうすると本人も真剣になってやりますし、献立にもバリエーションがでますから」
料理人だけではなく、配膳をする人も地元出身者や、地元に嫁いで来た人がほとんどという松泉閣花月。
「最近、ふるさとが無いという人も多いので、そういう方にもふるさとと思ってもらえたら」という若女将の言葉どおり、「故郷に帰ってくる」ような気持ちにさせてくれるあたたかな宿です。
宿泊時の夕食例
和モダンフルコースの初夏のコース
料理は「厳選懐石」「和モダンフルコース」の2種から選べます。写真は人気の和モダンフルコース。和をベースにした創作料理を、畳の上に椅子テーブル席で気軽に楽しめます。
- 1.出雲崎蛸のグリーンサラダ
- 南魚沼産のサラダホウレン草をはじめ、オクラ、紫アスパラ、胡瓜、スナップエンドウ、ほおずきトマト、アボカド、大葉という野菜に、新潟県の出雲崎産の蛸を加えたサラダ。ドレッシングも自家製で、白ごま油に塩昆布、醤油、ワサビを加えたもの。すだちの香りも爽やか。
- 2. 帆立真丈翡翠冬瓜包み
- 透明感のある冬瓜の下に見えるのは、帆立を使った真丈。たっぷりの鰹だしでいただきます。あしらいには初夏らしくミョウガとじゅんさいが。
- 3. 海の幸の盛り合わせ
- 新潟・日本海で獲れた鮮魚のお造り。仕入れによって内容は変わりますが、この日は佐渡産の南蛮海老、佐渡産のシマアジ、寺泊産のメバル。
- 4. 黒崎茶豆の甚太餅
- 新潟・黒崎地域の名産である黒崎茶豆と、道明寺粉を使った甚太餅。隠し味にヘーゼルナッツシロップが使われています。手前は黒崎茶豆の焼き枝豆。枝豆の濃厚な味わいが楽しめます。上に飾られているのはワイン漬けのクコの実。
- 5. 鱸の酒盗焼 夏野菜のピクルス添え
- アスパラガスを巻いた鱸を、風味のいい酒盗焼きに。後ろの器に入っているのはカリフラワー、ゴーヤ、ミョウガのピクルス。これも自家製で、甘酢に加えられた柚子胡椒がアクセントになっています。
- 6. 岩魚の抹茶揚げ
- 日本海沿岸で作られている笹川流れの塩と抹茶の風味がいい岩魚。二度揚げしてある頭と骨もパリッと香ばしく食べられます。
- 7. 越後もち豚陶板焼き
- 地元産の越後もち豚ロースと、パプリカ、長ナス、白舞茸、カボチャ、ズッキーニなどたっぷりの野菜を使った陶板焼き。タレは醤油ベースに、リンゴ、胡麻、赤ワイン、白味噌、オイスターソースなどで作られた自家製。
- 8. 越の鶏と丸茄子治部煮
- 地元の銘柄鶏に、新潟県長岡市の丸茄子をあわせて作られた治部煮。やさしい味わいです。
- 9. 魚沼産新米コシヒカリ、なめこ汁、香の物
- 親戚の家で栽培されている十日町産のコシヒカリを、味噌汁と香の物で。この日の漬物は菊芋の味噌漬けと胡瓜の土佐漬け。
- 10. マスカルポーネチーズムース 雪下人参ジュレ
- 隣町である津南産の雪下人参を使ったジュレが色鮮やかなデザート。