山から流れ込む清水で育てた米と野菜
野菜の味のイメージが変わる料理
欅苑は八海山の麓、雪深い南魚沼市にあります。明治3年に建てられた屋敷は、茅葺き屋根の伝統的な田舎屋造り。欅や桜などの木立に囲まれ、都会の人が憧れる日本のふるさとそのままの風景が広がります。
この欅苑の厨房に立つのは女将とそのご家族。この広い家をなんとか維持したいという気持ちから欅苑を始めました。4千坪の敷地と200坪の屋敷を維持するのは並々ならぬ手間と時間がかかります。とくに欅苑の看板である大きな茅葺き屋根は、相当なコストをかけて定期的に葺き替えなければなりません。そこで、魚沼の旬菜を使った料理で人々をもてなし、屋敷を利用してもらおうと、1986年に欅苑を開店。名前は建物の前にある樹齢1500年の欅の木にちなんでつけられました。
「春は山菜に水芭蕉、夏はほたるに蝉時雨と、水と空気のきれいな環境でなくては出会えないものも、ここではごく普通に出会えます。こういう環境ですから、山菜も野菜もきのこも近くでいいものがそろいます」。
欅苑では、料理に使うお米も野菜も、ほとんどが自家栽培のもの。家屋の裏手にある田んぼで米を育て、自家菜園で野菜を栽培しています。とくに野菜は、女将がその日最も美味しく食べられるものを畑から採り入れ、すぐに調理するので鮮度は抜群。八海山の伏流水で育っているので、美味しさは言うまでもありません。
「このあたりは、いい水が豊富に湧く地域なんです。その水は『雷電様の清水』といって、八海山系のひとつ、桂山の麓の岩肌から湧いています。すぐ裏の田んぼと畑に流れ込んでいるのも、やっぱりこのお水。水がいいから、お米も野菜も、美味しく育つのでしょうね」。

欅苑のコースは、5,250円と7,350円の2種類です。旬のものを使うので、献立は季節によって変わります。
料理はいずれも、だしで野菜の持ち味を引き立てた上品な味わい。一つひとつの食材に手をかけているので、食材のもつ旨みがひたひたと重なって滋味ゆたかな味わいが楽しめます。とくに野菜への火の入れ方が抜群で、ふだん食べ慣れているはずの野菜も、味のイメージが変わるほどです。
たとえば、シャキッとした食感とともに、春の苦みがふわりと広がる「菜の花とウルイの寄せもの」、ほっこりと炊いたユリネの甘みが印象的な「あげまんじゅう」などなど、感動的な美味しさです。
欅苑の料理をいただくと、野菜のおいしさは未知数だと感じます。一つのお膳のなかに、冬から春へ、春から初夏へ、夏から秋へと四季の移ろいが表現されており、食べ終わるころには、次の季節の到来が楽しみになってくるほど。季節を変えて、何度も足を運びたくなるお店です。
料理例
5,250円のコース
コースは昼も夜も5,250円と7,350円の2種類。自家栽培のお米と魚沼野菜で作った田舎風会席。旬の魚沼野菜の美味しさをふんだんに楽しめる。

- 菜の花とウルイの寄せもの
- 菜の花と山菜のウルイを寒天で寄せたもの。菜の花のシャキッとした食感が美味。
- ワケギとウド、ホタテのぬた
- ワケギとウドとホタテをからし酢味噌でさっと和えた一品。
- ホタテ風味のたまご豆腐
- ホタテのだしが効いた自家製たまご豆腐。
- マイタケのお吸い物
- 吸いものは、マイタケのえぐみを感じさせない澄んだ味わい。ときには天然のマイタケが登場することも。
- 岩魚の炭火いろり焼き
- 岩魚をいろりの炭火で塩焼きにした雪国の伝統料理。夏は天然ものの鮎に変わる。
- 自然薯の海苔巻き
- 山の滋養食“自然薯”をすり下ろし、海苔巻きに。自然薯独特の弾力が楽しめる一品。
- 自家製がんもどきの揚げ出し
- 野菜たっぷりのがんもどきは欅苑自慢の逸品。手作りならではのふっくらとした食感が楽しめる。

- ワラビのきんぴら
- 塩漬けにしておいたワラビを塩出しして、きんぴらに。冬の保存食を使った魚沼の伝統料理。
- 自家製ごま豆腐
- 柔らかすぎず、かたすぎず、絶妙な食感。ごまもほどよい濃さでおいしい。
- 白和え
- コンニャク、ニンジン、シメジ、キヌサヤを白和えに。
- レンコンのあげまんじゅう
- すり下ろしたレンコンの生地に百合根と銀杏を包み、ふっくらと揚げた一品。ほっこりと炊いた百合根が美味しい。
- ウドのごまだれがけ
- ウドの強い香りをごまだれがまろやかに包んでやさしい味わいに。
- せりごはん
- 自家製の魚沼産コシヒカリに、さっと湯通ししたセリを混ぜて。
- のっぺ汁
- 新潟の代表的な郷土料理。サトイモ、ニンジン、レンコンなどの根菜を薄く醤油で煮たもの。だしはホタテの貝柱で引く。銀杏を入れる地域も多い。